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老化などに伴う口腔環境の低下が、認知症や心疾患などの全身疾患の原因となることがわかりつつあり、少子高齢化が急激に進む中、口腔科学への関心が高まっています。そのため、東京医科歯科大学歯学部では、健康長寿社会の実現のために口腔科学に特化した最先端研究推進プロジェクトを設立しました。本プロジェクトにおいては、口の「形づくり(頭蓋顎顔面形態形成)」、「バランス(口腔免疫)」、「働き(口腔機能)」、「難病(がん)」および「材料(生体再生・再建)」の5つの重点研究ユニットを中心に展開し、さらに「社会・教育(社会医学・人材育成・国際連携)」ユニットを加え、口腔科学グローバル研究拠点として国際的トップランナーを目指しています。「口腔科学」は指定国立大学法人における重点研究領域の一つですが、本プロジェクトにより、大学内の部局をまたいだ研究推進体制がより円滑に機能することが期待されます。また、学内に併設されている難治疾患研究所、生体材料工学研究所、M&Dデータ科学センターと連携することで、本プロジェクトにおける異分野融合が加速し、その成果を臨床ならびに産業における実用化に結びつけることが可能となります。

最先端口腔科学研究推進プロジェクト
  • 2021
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  • 2017

我が国の基礎・臨床歯科医学の研究水準は高く、「骨代謝」、「味覚」、「歯の再生」、「感染・免疫」などの領域では、世界のトップジャーナルに研究成果を発表するなど、これまで世界をリードしてきた [日本学術会議歯学委員会報告:我が国における歯科医学の現状と国際比較2013 ]。pdf本学は、2019年の世界大学ランキング歯学分野において国内第1位、世界第10位を獲得しているが、さらに世界トップを目指した統合的歯学研究推進が、急速な少子高齢化社会を迎える上でも重要になってくる。


現在、8020運動の成果により、80歳で20本以上の歯を持つ高齢者が増加し、口腔の疾病構造が変化したために、それに対応できる先端的歯科医学・歯科医療の開発が急務となっている。我が国の歯学界は、これまで医学、工学と連携し、ライフサイエンスとマテリアルサイエンスを融合した幅広い口腔科学(オーラル・ライフサイエンス)を基盤とし発展してきた。


本学大学院を修了した留学生の多くは、帰国後、海外歯学部の歯学部長などの要職に就いて、大学教員として活躍している。彼らの「TMDU Alumni」としての思いは、歯学部の様々な国際的活動を生み出している。東京医科歯科大学の理念に根差し、指導者を育成し、世界レベルで歯科口腔保健への貢献を目指す本学歯学部の国際的活動は、常に「人材育成」につながっている。


しかしながら、口腔機能不全が全身性疾患に及ぼす影響や、その機序についてはいまだ明確にされていない。また、口腔がんや頭蓋顎顔面形成異常などの口腔機能を著しく損なう難治疾患についても、疾患発症メカニズムは不明な点が多く、その治療戦略や早期診断法の確立が急務となっている。これら口腔疾患の治療には、材料工学や機械工学と連携した、さらに高機能の修復装置・材料の開発が求められている。本学の基礎・臨床歯科医学研究の向上には、これら基軸となる研究テーマを分野・領域を超えた連携で推進して行く必要がある。


最先端口腔科学研究推進プロジェクトは、高齢化社会における先端的歯科医療開発に対応し、口腔疾患グローバル研究拠点として、形づくり(頭蓋顎顔面形態形成)、バランス(口腔免疫)、働き(口腔機能)、難病(がん)および材料(生体再生・再建)の5つの重点研究プロジェクトを中心に展開し、さらに社会・教育(社会医学・人材開発・国際連携)を加え、これらをより効果的に推進し、世界にさきがけて展開して行く、口腔科学研究の国際的トップランナーを目指すプロジェクトである。


本プロジェクトにより、医歯学総合研究科の分野をまたいだ領域性による効率的な本学の研究推進体制がより機能し、学内に併設されている難治疾患研究所、生体材料工学研究所、研究・産学連携推進機構、国際統合機構の機能を有効に活用しながら、最先端の研究成果を世界に発信することが可能となる。

具体的な研究内容について

形づくり(頭蓋顎顔面形態形成) ユニットリーダー 井関 祥子

頭蓋顎顔面は、脳や種々の感覚器を包含し、消化器系や呼吸器系において外界とのインターフェースを構成するとともに、アイデンティティーを確立する上で極めて重要な部位です。頭蓋顎顔面領域の先天疾患の発生頻度は心奇形とともに最も高く、遺伝学的要因と環境要因が複雑に絡み合っているため、いまだ病因が明らかになっていない疾患が多く残されています。本研究ユニットでは、頭蓋顎顔面領域の先天疾患の病態メカニズムの遺伝学的要因、環境要因をヒトリソースやモデル動物、引いては細胞レベルの最先端研究技術を用いた解析によって明らかにし、また当該疾患による形態不全や欠損の修復・再生法を研究します。これらの研究成果を統合して頭蓋顎顔面の形づくりのメカニズムを明らかにするとともに、新たな診断・治療・予防法の開発を目指します。[詳細]

バランス(口腔免疫) ユニットリーダー 東 みゆき

口腔疾患と全身疾患との関連が疫学研究から報告されているものの、その科学的証明はありません。歯周病に代表される口腔感染症は、特定の病原性細菌により引き起こされる慢性炎症性疾患と理解されてきましたが、実際の病態は病原性細菌と共生細菌のバランス異常 (dysbiosis)により口腔内環境が撹乱されて免疫異常が生じている一種の免疫病とも考えることができます。本ユニットでは、病原性細菌のみならず口腔共生細菌に注目し、口腔疾患による口腔細菌叢の変動と口腔局所免疫応答の変化に焦点をあて研究を進めるとともに、口腔疾患による腸内細菌叢と腸管免疫および全身免疫の変化も検討することで、口腔疾患と全身疾患との関連解明に迫ります。また、口腔局所を制御することによる口腔疾患、さらには全身疾患の治療法開発を目指します。[詳細]

働き(口腔機能) ユニットリーダー 小野 卓史

咀嚼・呼吸など個体の⽣命維持に不可⽋な機能とともに、表情・⾔葉によるコミュニケーションなど円滑な社会⽣活を営む上で重要な機能を担うヒトの顎顔⾯⼝腔領域は、ヒトの⼀⽣において⼤きな役割を果たします。本研究では、動物を⽤いた基礎研究ならびに症例を⽤いた臨床研究の両⾯に⾏動学的・神経⽣理学的⼿法を組み合わせて、この領域が有する機能の維持・破綻・回復に関するメカニズムを明らかにすることで関連疾患の治療法の開発を試みます。[詳細]

難病(がん) ユニットリーダー 渡部 徹郎 ユニットHPlink

「口腔がん」は、いまだ原因遺伝子や悪性化因子が同定されていない難病です。わが国では罹患率も死亡率も年々増加する一方であり、近年では年間約8000 人が「口腔がん」に罹り、約3000 人もの患者が死亡しています。本ユニットにおいては、(1) 本学の豊富な臨床サンプルを活用して、大規模な患者データベースを作成し、口腔がんの発症・進展の機序を多角的に解明することを試みます。さらに、得られた知見を用いて、(2) がんの特性を早期に正確に知ることができる診断法を樹立するとともに、(3) がん細胞・腫瘍血管などを同時に標的とした多角的な新規治療法を免疫療法や放射線療法と組み合わせることで開発します。これらの試みにより、患者のゲノム情報などを用いた「口腔がんのPrecision Medicine」を世界に先駆けて樹立することを目指します。[詳細]

材料(生体再生・再建) ユニットリーダー 宇尾 基弘

近年の安全で侵襲が少なく審美的な歯科医療の発展は、歯科材料や精密な計測・加工技術の進歩により達成されました。また最新診断技術は、患者の負担が少なく、短時間で正確な診断を可能にしており、生体組織を用いた再生医療も飛躍的な進歩を遂げています。本テーマではこれら歯科医学と工学の最新技術の融合による新たな診断・計測技術、歯科医療素材やその造型技法の開発により、安全で患者の負担の少ない治療を目指します。[詳細]

社会・教育
(社会医学・人材開発・国際連携) ユニットリーダー 櫻田 宏一

超高齢社会を迎え、高齢者の現在歯数の増加に伴う歯周病やう蝕の増加、口腔機能低下症や口腔内細菌による誤嚥性肺炎の増加といった課題の出現により、歯科医学が社会から求められる役割は変化し続けています。その変化をデータに基づき把握する視点は重要であり、口腔と全身疾患の連関に着目した新たな先端的歯科医療による取り組み、テーラーメイド歯科医療が求められる時代となりました。特に、このコロナ禍において、遠隔医療は歯科医学にとっても極めて重要な取り組みとなります。本ユニットでは、5つの重点研究プロジェクト成果を社会医学・人材育成・国際連携という形で社会に展開していくための基盤構築を目指します。そのための主たる研究テーマとして、「臨床疫学研究の推進」および「教育研究の推進」を掲げました。前者では病院ビッグデータを用いた研究や医療アクセス困難者への臨床疫学データを活用した研究、後者では歯学教育の国際展開プログラム開発の推進等から構成され、重点研究プロジェクト成果を我々のもつグローバルネットワークを通じて世界に広く提供するための重要な基盤研究と位置付けています。[詳細]