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バランス(口腔免疫)ユニット

研究内容の概略

 歯周病と全身疾患との関連が疫学研究から報告されているものの、それを科学的に証明している研究は殆ど存在しない。歯周病に代表される口腔感染症は、特定の病原性細菌により引き起こされる慢性炎症性疾患と理解されてきた。しかしながら、近年のマイクロバイオーム解析技術の進歩により、これまで培養ができなかった嫌気性の常在細菌が果たす役割が明らかになりつつある。常在細菌やそれらが産生する代謝産物は、上皮細胞、免疫細胞の機能に影響を与えていること、特定の疾患では常在菌の構成異常(dysbiosis)が生じており、これを回復させることで病態の改善がみられることが報告されている。興味深いことに、歯周病と全身疾患との関連が示唆されている多くの疾患において、腸内細菌をはじめとする常在微生物叢の構成異常が報告されている。このような背景のもとに、歯周炎に関しても常在菌の構成バランス異常という観点から病態を見直す必要が生じている。口腔細菌叢の構成バランス異常により口腔内環境が撹乱されて慢性炎症が生じ、さらにはこの慢性病態が多臓器の慢性疾患に影響している可能性、口腔細菌叢の構成異常が腸内細菌叢を撹乱させ、腸管免疫および全身免疫の異常を引き起こしている可能性などが考えられる。本ユニットでは、口腔内細菌と口腔局所免疫応答(組織炎症)の変化に焦点をあて研究を進めるとともに、常在細菌叢と炎症応答の変化も検討することにより、口腔疾患と全身疾患との関連解明に迫る。また、口腔局所を制御することによる口腔疾患さらには全身疾患の治療法開発のための技術的基盤の確立を目指す。

具体的な研究内容(関連分野による分担)

1. 歯周炎患者における口腔細菌叢の構成異常の有無の検討(歯周病学分野、生涯口腔保健衛生学分野、歯髄生物学分野、小児歯科学分野、細菌感染制御学分野、分子免疫学分野)
 適切な対照群を設定し、辺縁性歯周炎における歯周フローラおよび根尖性歯周炎における根尖フローラの細菌16S rRNA遺伝子解析を行なう。辺縁性歯周炎患者においては腸内細菌叢への影響も調べるために、同時に便検体も採取する。検体は遺伝子解析用と細菌培養用に分け、培養分は凍結保存する。メタ16S rRNA解析は、すでに共同研究を実施している服部正平教授(早稲田大学)との共同研究で実施し、細菌種の特定および菌種組成解析およびクラスタリング解析を実施する。データ解析は、健常人との比較、腸内細菌叢との関連、既存の歯周病原細菌と共生細菌との関連などからも解析する。細菌叢に疾患の重症化・難治化、また全身疾患への関連など認められるものがあれば必要に応じてメタゲノム解析を行い、遺伝子機能を解析する。さらに、メタトランスクリプトーム・メタボローム解析へと発展させ、細菌叢のdysbiosisについて詳細を明らかにする。

2. 口腔細菌叢による局所口腔免疫および全身免疫への影響の検討(分子免疫学分野、細菌感染制御学分野、歯周病学分野、歯髄生物学分野)
 口腔細菌叢が局所および全身免疫に与える影響を検討するために、無菌マウスにヒトフローラを定着させたヒトフローラ保持マウス(HFマウス)を樹立する。樹立したHFマウスで、患者由来の構成異常が認められた口腔細菌叢を定着させ、辺縁性歯周炎や根尖性歯周炎モデルを作成し、歯肉および根尖部炎症局所炎症組織および所属リンパ節(局所口腔免疫)、パイエル板・粘膜固有層・腸間膜リンパ節(腸管免疫)、脾臓(全身免疫)における免疫細胞の構成および機能変化を評価する。
 顕著な免疫変化を示す口腔細菌叢における責任細菌クラスターを同定すると共に、HFマウスで特定の全身疾患を発症させ、そのモデルにける口腔細菌クラスター移植を実施し、その影響をみることで、口腔細菌叢と全身疾患野影響を検討する。

3. 口腔環境制御による口腔疾患・全身疾患治療法開発のための基盤技術確立(咬合機能矯正学、小児歯科学分野、生涯口腔保健衛生学分野、分子免疫学分野、細菌感染制御学分野)
 口腔疾患に関与している宿主遺伝子や分子さらには細菌由来代謝産物などが明確になれば、アプローチが安易である口腔粘膜や歯周組織に存在する上皮細胞、免疫細胞、細菌等を標的とする制御が可能となる。しかしながら、口腔粘膜は唾液等に覆われているので、薬剤の安定性やdrug delivery system (DDS) に対しての工夫が必要となる。口腔におけるDNA decoyやsmall interference RNA (siRNA)などの核酸医薬の応用に向けた基盤技術研究を実施する。