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働き(口腔機能)ユニット

研究内容の概略

①「口腔機能の育成・回復・管理による脳・全身機能低下の予防・改善・支援」を主たるテーマとして研究を行っており、特に、軽度認知機能障害(MCI)に焦点を当て、口腔機能の回復・管理による脳・全身機能低下の予防・改善・支援」について研究を行った。
②従来は口腔機能や嚥下機能の低下が認められる患者に対しては、相当する筋力トレーニングを行うという対応が行われてきたが、どのような特性のある患者が口腔周囲筋の低下が発生しやすいのかについて研究を行った。

具体的な研究内容(関連分野による分担)

①日本における認知症を有する高齢者の数は年々増加傾向にある。認知症発症・進行には歯周病や咀嚼能力の低下をはじめとする様々な口腔内環境・口腔機能が影響を及ぼしていると推測されているが、認知症発症・進行に関連する口腔内因子は明確にはなっていないのが現状である。
 軽度認知障害(MCI)は認知症の予備群と考えられており、放置すると4年で約半数が認知症に進行するといわれている。認知症が進行した後では歯科的介入が困難な部分があることを考慮すると、MCIの段階は、口腔機能を維持するための高度で積極的な歯科介入が行える最後のチャンスとも言える。また、先行研究からは、認知機能と歯周病や咀嚼機能との関連が一部解明されていることから、口腔機能の維持向上が認知機能低下の予防にも通じる可能性が考えられる。
 しかし、MCI患者の口腔環境・口腔機能に関しての詳細は明らかではなく、どのような歯科的介入が効果的であるかも明らかではない。特にこれまで多くの先行研究は自記式アンケートによる評価に限定されていた。そこで本ユニットにおいてはMCI患者が通院する認知機能予防専門医院に歯科医師・歯科衛生士を毎週派遣し、横断調査によってMCI患者の口腔環境と口腔機能を明らかにし、認知機能との関連を検討した。口腔環境と口腔機能は、残存歯数などの器質的なデータに加え、舌圧や口唇閉鎖力、咀嚼・嚥下機能などの機能的なデータを客観的に評価する。また、医学部と連携し、唾液を試料としたマイクロバイオーム解析を次世代シークエンサーによって行った。

共同研究体制
共同研究を行った分野および代表者の主な役割を以下に記載する。

医学部特任教授(朝田隆) →参加者リクルート・MCIの治療
医学部分子生命情報解析学分野(赤澤智宏) →唾液のマイクロバイオーム解析
歯学部地域・福祉口腔機能管理学分野(古屋純一) →研究の統括、実施
咬合機能矯正学分野(小野卓史) →脳機能の評価
高齢者歯科学分野(水口俊介) →データ測定の総括
生体補綴歯科学分野(若林則幸) →将来の介入研究の検討

②高齢者における舌骨上筋群及び咀嚼筋の筋肉量と開口力について検討した。加齢は舌圧を低下させるということが判明した。骨格筋量の低下は男性の開口力は低下させるが、女性では低下せず、口腔周囲筋の部位により低下の様相が異なり、また性差もあるということであった。開口力が低下した男性高齢者では安静時の舌骨の位置が低下するが、女性では低下しなかった。
 また、舌骨上筋群の中で顎二腹筋は加齢と体格指数の低下で委縮するが、オトガイ舌骨筋は加齢のみに関連があることなどもわかった。咬筋は加齢や年齢には影響を受けず、歯の本数が減少すると低下したが、これは筋の特性として遅筋成分が多いことが原因であると思われた。さらに舌の筋肉の量のみならず質に目を向けてみると、量が減ると力が弱るが、質が悪化すると巧緻性が低下した。
 また、従来サルコペニアの指標として用いられてきた骨格筋量が口腔周囲筋の指標として適切であるのかという点に関しては、体幹の筋の方が関連性が高く、首の太さや背筋力も口腔周囲筋との関連が高いことも分かった。以上のことより、高齢男性には舌および舌骨上筋、高齢女性には舌のトレーニングが有用であり、舌については筋力トレーニングよりも巧緻性のタスクが有用な可能性があることが考えられた。
 さらに、舌や舌骨上筋の筋肉量を保つためには体幹筋を保つ生活が重要で、咬筋を保つためには歯の本数を保つことが重要であると考えられた。