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難病(がん)ユニット

研究内容の概略

 日本では年間約8000人が「口腔がん」に罹り、約 3000人もの患者が死亡している。アメリカをはじめとする先進諸国では、口腔がんの早期発見、早期治療を徹底することで、罹患率は変わらず高いものの死亡率は減少傾向にあるが、日本では罹患率も死亡率も年々増加する一方である。口腔がんの中で最も多い舌がんの原因としては飲酒・喫煙などの化学的な慢性刺激 などが考えられているが、がん化を起こすドライバー遺伝子などは未だ同定されておらず、遺伝学的な検討はなされていない。また、舌がんには早期から頸部リンパ節に転移して急速に進行する悪性度の高いものがあり、がん細胞が上皮間葉移行 (EMT)を起こして浸潤・転移する機序や、血管・リンパ管新生の様式など未解明な部分が多く残されている。そこで本研究においては本学における豊富な臨床サンプルを活用して、口腔がんを多角的に研究し、がんの発症・進展の解明を通じて、がん細胞、腫瘍血管・リンパ管など様々な因子を標的とした化学(薬物)療 法・放射線療法・免疫療法との併用も含めた新規治療法の開発を試みる。さらに,咀嚼・嚥下・発音と密接に関わる口腔という器官への侵襲がもたらす機能障害に注目し,特に外科切除後の口腔がんサバイバーへの対応,治療法の確立を目指す。

具体的な研究内容(関連分野による分担)

1. 口腔がんの新規診断法の開発 (口腔病理学)
 口腔粘膜がんの早期診断のためのマーカーを豊富なデータベースを用いて同定し、粘膜切除による早期治療を可能とすることにより、治癒率を 100%にすることを試みる。

2. 口腔がん新規治療法の樹立
2-1. 化学(薬物) 療法(硬組織病態生化学・口腔病理学)
 がん細胞は腫瘍組織における間質と相互作用することで高悪性化し、肺や骨などの遠隔臓器への転移能を獲得する。また、転移したがん細胞は転移先の組織を改変しながら転移巣を形成する。つまり、患者の命を奪うがん転移は「がん細胞」「がん間質」「転移臓器」という複数の臓器のネットワークにより誘導されるが、そのメカニズムには解明されていない部分が多い。そこで領域内の専門分野を結集してこの分子機序を明らかにすることにより、新規がん治療法の開発を目指す。
 口腔がんに おけるがん幹 細胞、腫瘍血管・リンパ管新生ならびにがん間質の多 様性を検討することにより、がん微小環境の構成因子(がん細胞、腫瘍血管・リンパ管、がん関連線維芽細胞など)を標的とした治療法の開発を試みる。また、治療法の開発においては、低分子化合物のスクリーニングを介した新規がん治療薬の開発や、新規抗体の樹立を介したがん免疫療法の開発など知的所有権の取得も試みる。

2-2. 免疫療法(分子免疫学・口腔放射線腫瘍学・硬組織病態生化学)
 がん微小環境には,がんに対する免疫応答を妨げる種々の免疫抑制因子が存在している。免疫応答の進行は、負の共刺激分子である CTLA-4、 PD-1、 VISTAなどの数々の免疫チェックポイント分子によって制御されている。がん免疫応答強化には、この免疫チェックポイント阻害が必要であることが、 CTLA-4や PD-1に対する阻害抗体である免 疫チェックポイント阻害薬の臨床成績から実証されつつある。本研究では、口腔がんにおける有効症例判定のためのバイオマーカー探索、他の免疫療法および化学療法・放射線療法などとの併用療法を含めて、免疫チェックポイント阻害薬の、より効果的な使用法を検討する。

2-3. 放射線治療法
(口腔放射線腫瘍学・口腔放射線医学・顎顔面補綴学・腫瘍放射線治療学(医))

 同じ頭頸部がんである咽頭がんでは、根治的な治療法として放射線 (化学 )療法が主流になりつつあるが、口腔がんでは、初期がんに対する小線源治療を除いてほとんど実施されていない。本プロジェクトでは、 1)歯科的技術、知見を応用した正常組織防護法、口腔乾燥症改善法の開発、 2)口腔がんの種々の先端的放射線治療法に対する適応に関する研究、 3)口腔がんに対する放射線治療の予後予測法、放射線増感法の開発、という主に3つの観点から研究 を推進することで、革新的な口腔がん放射線治療法の確立を目指す。

2-4. 頭頸部がんサバイバーへの術後治療法
(顎顔面補綴学・顎口腔外科学・顎顔面外科学・口腔顔面痛制御学・頭頸部外科学(医)・形成外科(医))

 頭頸部は咀嚼,嚥下,発音機能と密接に関わっており、頭頸部がん術後に著しく機能障害を呈する患者さんも少なくない。 機能回復は QOL向上にも寄与することから、本プロジェクトでは、特に外科切除などにより口腔機能を失ったガンサバイバーへの治療法・対応法を、非観血的処置である顎顔面補綴的手法と、観血的手法である 外科的手法の両面から検討し、口腔がん治療後がんサバイバーに適 した治療法,対応法の確立を目指す。

「ユニットの概要」の図