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全分野紹介

摂食嚥下リハビリテーション学分野

教授
戸原 玄
准教授
中川 量晴
講師
山口 浩平
助教
吉見 佳那子
戸原 玄

分野概要

摂食嚥下リハビリテーション学分野は、2020年4月高齢者歯科学分野から独立する形で設立された。摂食嚥下リハビリテーションを軸とした医療を実践し、国民の健康増進に貢献できる人材の育成を目指している。臨床では、高齢者のみならず成人や小児にも対応し、歯科訪問診療、外来診療およびオンライン診療で、日本中、世界中に医療を提供可能である。研究は、摂食嚥下機能やその訓練方法に関わるものだけではなく、経口摂取が全身にもたらす影響(腸内細菌叢の変化など)、嚥下機能の日内変動、視覚・味覚の感覚間協応、また、喉頭癌術後など発声障害患者への対応として口腔内装着型発声補助装置「Voice Retriever」の開発、効果検証など多岐にわたる。

研究活動

  • フレイル、サルコペニアと口腔周囲筋の関連、および超音波診断装置を用いた口腔周囲筋の評価法確立
    超音波診断装置は、筋肉の評価にすぐれ、その性質を定量評価できる。かつ、超音波診断装置は簡易で、非侵襲、かつ使用可能な職種も多いため、汎用性が高い。超音波診断装置による口腔周囲筋の評価法の確立をはじめ、口腔周囲筋の加齢変化、口腔周囲筋と全身、特に近年注目されているフレイル、サルコペニアといった高齢者の虚弱との関連を明らかにすることを目的としている。
  • 胃ろうモデルラットを用いた栄養学的な検討
    高齢者や摂食嚥下障害患者では、誤嚥性肺炎や低栄養を予防するために胃ろうなどの経腸栄養を選択することがある。胃ろうは利点の多い栄養摂取法ですが、一方で慢性的な消化管障害などを生じることがある。そこで、胃ろうモデルラットを作製し、さまざまな種類の栄養剤で飼育し、栄養価、腸内細菌叢などに変化が生じるか探索している。
  • 頚椎疾患患者の嚥下機能の画像解析
    頚椎疾患患者においては、比較的多くの術後嚥下障害に関する研究報告がされている。しかしながら、嚥下障害の原因を運動学的に解析した研究は少ない。そこで、本学医学部整形外科学分野との共同研究として、頚椎疾患患者の手術前後の舌骨運動等を嚥下造影検査の画像をもとに解析し、術後嚥下障害の原因を検索している。
  • 五感を活用した摂食嚥下リハビリテーションのアップデート
    従来の摂食嚥下リハビリテーション研究の多くは機能に着目しており、感覚に言及したものは少ない。五感を利用する、つまり食品の見た目や匂い、食感等を変化させることで食体験を変えることができれば、食思不振といった先行期の障害にも応用できる可能性がある。
    五感が食体験に与える影響を明らかにすることで、摂食嚥下リハビリテーションのアップデートや新たな食体験の創出を目指している。
  • ポータブル二段階湾曲式内視鏡の開発
    摂食嚥下リハビリテーションで用いられる内視鏡は、一段階の湾曲が基本であり、気管前壁の誤嚥物は検出できても、気管後壁の誤嚥物は検出しづらいという欠点があった。しかし、嚥下後誤嚥は、むしろ気管後壁を辿る場合も多い。開発された新型内視鏡によってより精密な検査に活用できる可能性がある。
  • 口腔内発声補助装置「Voice Retriever」の開発と効果検証
    コミュニケーションは豊かな生活を送る上で極めて重要であるが、喉頭癌術後などで声帯を失うと、発声ができなくなる。代用発声法は複数あるが、特別な訓練を要したり、ノイズが大きいなど課題もある。我々が開発した口腔内装着型発声補助装置「Voice Retriever」は、既存の代用発声法とは全く異なるコンセプトに基づく、マウスピースを用いた代用発声である。装置の一層のアップデートと効果検証を進め、必要とする患者に「声」を取り戻す体験を提供していく。
  • 嚥下機能の日内変動とリハビリテーションへの応用
    人の身体機能は日内変動があり、最大で26%も異なる。しかしながら、口腔、嚥下機能も身体機能と同様に日内変動があるのかどうか、また、朝型・夜型などクロノタイプ、睡眠時無呼吸症など睡眠関連疾患の影響も不明である。嚥下機能の日内変動を明らかにし、時間の概念を取り入れた摂食嚥下リハビリテーションのアップデートを目指している。
  • 胃ろう食や発酵食品の摂取と腸内細菌叢の関連
    経管栄養管理を受ける脳卒中患者や医療ケア児では、既製の栄養剤のみを使用する場合よりも、経口摂取への移行や胃ろう食(胃ろうからミキサー食を注入する方法)により腸内細菌叢の多様性が増加し、菌のネットワーク構造にも良い影響がみられることを報告した。胃ろう食や発酵食品など、嚥下障害者が摂取する食事の違いが全身に与える影響を研究している。

教育活動

  • 摂食嚥下リハビリテーションを軸として、在宅医療、高齢者医療で国民の健康増進に寄与できる人材の輩出を目指している。学部教育では、在宅医療、摂食嚥下リハビリテーションに関わる座学に加えて、実際の歯科訪問診療の場で医療・介護現場における「食」の大切さや多職種連携の重要性を体感してもらっている。大学院教育では、医療職に留まらない、様々な専門家との共同研究・活動を通じて、幅広い視点で摂食嚥下リハビリテーション学の発展に貢献できる人材育成をしている。

臨床上の特色

  • 当分野の臨床上の特色は、嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査などを用いた専門的な摂食嚥下リハビリテーションで、「食」を通じて患者の楽しく、豊かな生活を支えることを目的としている。居宅や施設訪問による在宅医療に力を入れており、食形態や姿勢、食環境の調整など食事に関わる全体最適化を図る。外来診療では、東京医科歯科大学病院入院中の患者だけではなく、当院や他院退院後の患者にも摂食嚥下リハビリテーション医療の提供をしている。遠方の患者にはオンライン診療も可能である。また、疾患などに由来する発声困難患者には、口腔内装着型発声補助装置「Voice Retriever」を提供している。