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全分野紹介

高齢者歯科学分野

准教授
駒ヶ嶺 友梨子, 猪越 正直
講師
濱 洋平
助教
本村 一朗, 添田 ひとみ(産休中)副田 弓夏(育休中), 大沼 啓, 中井 啓人(育休代替)

所在地 1号館東3F
TEL 03-5803-5582FAX 03-5803-5586
s.minakuchi.gerd(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp
分野HP http://www.tmd.ac.jp/ore/index.html

分野概要

現在の高齢者歯科学分野は、平成25年度に全部床義歯補綴学分野と高齢者歯科学分野を統合したものである。加速度的に進行する社会の高齢化に歯科医学の立場から素早くかつ力強く対応できる人材を生み出し、必要なエビデンスを創出するためである。統合前からの教育研究臨床はそのまま継続しているが統合による付加的な効果も生み出している。すなわち全部床義歯に関連する研究、歯科治療時の全身管理に関する研究、加齢による高齢者の口腔の変化に関する研究、高齢者の口腔機能と栄養状態に関する研究など健康長寿社会の実現に大きく寄与する研究を実施している。

全身管理、補綴歯科治療を2本の矢として、
高齢者の幸せに貢献できる歯科医療を目指します。

研究活動

有病高齢者の全身管理および歯科治療、無歯顎補綴を中心とした以下の幅広い研究を行っています。

  • 有病高齢者の侵襲的歯科治療における全身的偶発症の予防と予測を目的とした一連の研究
    有病高齢者は生理的および病的老化により歯科治療において循環器系偶発症が起きやすい.そこで,有病高齢 者の循環器系偶発症の非侵襲的な予測手段を開発するために,①病歴,薬剤,理学的検査データ等の疫学的調査, ②開心術前高齢者の歯科治療における循環動態変動解析,③ホルター心電図による不整脈発生の解析,④循環系 偶発症予測を目的とした生体信号の線形· 非線形解析,⑤血圧変動予測のためのシステム同定を用いた数学的手法 による解析,⑥発生した全身的偶発症に関する病因論やリスクファクター等に関する研究,等を行っている。
  • 口腔乾燥症の新しい診断方法の確立
    高齢者に多く発症する口腔乾燥症の新たな診断方法として,光ファイバーを用いた口腔内計測用の光学的水分計 システムの構築,および口腔内湿度計測装置の開発を行っている。
  • 高齢者の口腔立体認知能力に関する研究
    近赤外線分光法(NearInfra-RedSpectroscopy: NIRS)を用いて口腔内認知能力テスト(OralStereognosisAbility: OSAテスト)における高齢者の脳活動を計測した.さらに,OSAテストを改良し,認知症スクリーニングテスト としての実用性について検討している。
  • 高齢者の口腔粘膜における義歯床下粘膜の閾値に関する研究
    Semmes-Weinstein monofilamentsを用いて,義歯床下粘膜の疼痛閾値を計測し,残存歯数または,咬合様式によ る疼痛閾値変化を検討した.さらに,口腔内閾値変化に影響を与える因子について検討している。
  • 最先端レーザーを用いたジルコニア補綴物加工および無痛治療応用
    「セラミッククラウンのデジタルプロセス」の確立を目的に,クラウンの 3 次元 CAD データを作製し,ナノ秒 レーザーとフェムト秒レーザーを組み合わせて完全焼結ジルコニア材の3D高速レーザー加工を行っている.ま た,加工反力が非常に小さく熱加工ではないフェムト秒レーザーによる天然歯の加工の有効性についても検討を 行っている。
  • 機能時の全部床義歯の動揺に関する研究
    咬合診査のために義歯の動揺量を測定する場合,不動点の確保が困難のため,歪ゲージ式やインダクタンス式 変位変換器は使用できない.そのため 不動点がいらない慣性計測装置(IMU)を設置することにより,変位量を 測定することが可能となる.そこで慣性測量装置を用いた変位計の開発を行っている。
  • インプラントオーバーデンチャーの応力解析
    下顎の無歯顎症例においては義歯の安定を得ることが難しく,これは特に顎堤が著しく吸収した症例において顕著 である.義歯の支持· 維持にインプラントを用いることによって義歯の安定の改善が期待できるが,インプラント に過大な応力が生じた場合にはオッセオインテグレーションを阻害する可能性がある.インプラントオーバーデン チャーの応力解析を行い,義歯の維持とインプラント周囲骨の応力緩和の点で望ましい補綴デザインを模索する。
  • 全部床義歯補綴の臨床データの蓄積と補綴効果
    予後を左右する要因の解析と予測 全部床義歯はその維持安定を被圧縮性に富む顎堤粘膜に負うため,これらの条件によってその難易度が大きく変 化する.さらに,上下顎堤間の大きな空間の中に人工歯の配列位置や研磨面,床縁の位置が設定されるため,義 歯の形態は各患者間で,あるいは術者の技量によって非常にバリエーションが大きいものとなり,それらが義歯 の予後に大きく関わる.加えて,全身状態の影響や認知症など全部床義歯補綴の難易度や予後を左右する要因は 多様で,その要因の変動幅も大きい.これらの多数の要因を整理し,相互関係を明確にし,全部床義歯補綴の効果や予後を正確かつ定量的に予測できる手法を確立することを最終目的とする。
  • 軟質裏装材の開発
    軟質裏装材の使用によって,床下粘膜の失われた弾性を補い咬合時の衝撃を吸収緩和し,疼痛を軽減するとされ ているが,市販されている材料には理工学的性質,汚れの付着などの面で課題を残しており,長期の使用に十分 ではない.義歯の機能を向上させ,材質的にも安定し,長期の使用に耐えられる軟質裏装材を開発することを目 的として,材料や表面処理剤を試作し,理工学的に検討を行う。
  • 無歯顎補綴の新しいデザイン
    製作手法の確立 全部床義歯では口唇· 頬· 舌などの周囲軟組織との機能的協調,適切な顔面形態の回復を考慮した義歯形態を付与 することが重要である.そして床縁形態,人工歯配列や研磨面形態を上下顎堤間の自由度の大きい空間の中に口腔 機能や顔面形態に合致して設定しなければならない.しかしながら現状では,義歯形態決定は文章で表現された 教科書的なガイドラインはあるものの,術者の技術経験によってなされるため,たとえ同じガイドラインに沿っ たとしても作成される義歯の形態· 品質は患者間,術者間で非常にバリエーションが大きい.これは今後の社会の ニーズに応え,教育を的確に行うためにも許容できることではない.我々は義歯形態決定の指標を定量的なデー タとして得ることを目的とし,さらには義歯形状決定のための参照をより具体的な形で,数値データとして提供 くれるような,マン-マシンシステムとしての義歯製作支援システムの製作を試みている。
  • 色変わりチューイングガムを用いた咀嚼能力評価法の確立
    現在,さまざまな咀嚼能力評価法が存在するが,簡便かつ客観的な評価法は少ない.当講座では,咀嚼によって 緑から赤に変色する色変わりチューイングガムを開発した.色変わりチューイングガムによる咀嚼能力評価を行 うために,色変わりガムに対応したカラースケールを作成し,ガムの色変わりに影響する要因の分析を行い,残 存歯数に関わらずさまざまな年齢層からガムの色変わりデータを取得する.これにより,歯科医師だけでなく一般人であっても簡便かつ客観的に咀嚼能力評価が可能な手段の確立を目指す。
  • 根面う蝕に対する新規修復材料の開発
    近年、高齢者における一人平均喪失歯数は徐々に減少しており、残存歯数は増加している。しかしながら、高 齢者においては、加齢変化や薬剤の副作用による唾液分泌能の低下、プラークコントロール不良などから、残存 歯の根面う蝕が増加している。根面う蝕の進行は歯冠破折を誘発し、補綴物周囲の根面う蝕は補綴物の不適合· 脱 離の原因となり、最悪の場合抜歯に繋がるため、高齢者の根面う蝕に対して有効な処置法を確立することは非常 に重要な課題であることに疑いの余地はない。  本研究では、イオン放出能と酸緩衝能を持つ機能性フィラーを用いたセメントを使用し、その圧縮強さ、イオ ン徐放量、酸緩衝能、実際の抜去歯を用いた根面う蝕再現実験により、最適な修復材料の開発を目指すことを目 的とする。
  • 審美性と強度· 耐劣化性を両立した次世代歯科用ジルコニアの開発
    ジルコニアは従来の歯科用金属の代替材料として注目されている。中でも高透光型ジルコニアは、審美性が良 好で今後の普及が期待されるが、審美性と物性の両立は困難であった。  本研究では、安定化材の他に添加物による透光性と強度の改善を目指し、審美性と強度· 耐劣化性を両立した全 く新しい積層型の高透光型ジルコニアの開発を目的とする。
  • ジルコニア· 陶材界面のナノスケール解析による陶材破折の原因究明とその制御
    ジルコニアを用いたオールセラミック修復物は、従来の陶材焼付冠に代わる修復物として多用されるようになっ ているが、前装用陶材の破折· 剥離(チッピング)が多く、修理または修復物の再製作を余儀なくされる場合が非 常に多い。しかしながら、前装用陶材の破折の原因については研究が進んでおらず、破折を防ぐための具体的な 対策が全く講じられていない。  本研究の目的は、ジルコニアを用いたオールセラミック修復物に多く見られる、前装用陶材の破折· 剥離(チッ ピング)の原因をナノスケールの解析によって明らかにし、チッピングの少ないオールセラミック修復物を製作するための手法を確立することである。
  • 咀嚼能力判定用チューイングガムの色変わり評価アプリケーションの開発
    当分野とロッテで共同開発、研究を進めてきた色変わりガムは未就学児から無歯顎者まで幅広い対象に適応することが可能であること、視覚的評価が可能であり誰でも簡単に咀嚼能力評価のために使用できること等が報告されている。さらに一般的に誤差なく評価できるツールとしてスマートフォン用のアプリケーションを開発する。
  • 口腔機能低下症前段階の改善のための介入法についての研究
    超高齢社会を迎えた我が国では、歯科領域からも介護予防に貢献することが強く求められている。本研究では多人数を対象とした口腔機能および全身健康に関する観察研究、およびその際に口腔機能低下症の前段階であった者を対象とし、簡便に実施できる介入方法を検討する。

教育活動

高齢社会における人間の健康維持を目的に,人間として避けてとおることのできない老化という現象を中心に捉え,高齢者の歯科医療に関連する臨床各科目の総合化と基礎領域を包括した学問の教育を目指している.疾病単位で患者を診るのではなく,日常生活を含めて包括的に診ることに力点を置いている.また,無歯顎という特殊な口腔内状態を理解し,歯の喪失により生じた形態的,機能的変化を全部床義歯によりいかに回復し維持するかを理解するとともに,全部床義歯製作法の基礎技術を習得することを目指し,講義,模型実習および臨床実習を通して指導を行っている。

臨床上の特色

スペシャルケア外来:有病高齢者の包括的な歯科治療を行っている.また,医学部附属病院から様々な全身疾患を合併する高齢者も数多く紹介されている.なかでも心臓弁膜疾患や先天性心疾患などで開心術を要する重篤な患者の紹介が多い.このような患者の包括的な歯科治療を安全に行うために,循環系偶発症の予防と対応に重点を置いている.すなわち,医学的知見に基づいた予防措置,ホルター心電図などを用いたモニタリング,全身的偶発症発生時の対応などの専門的な医学的管理を行っている.また,観血的処置を行うハイリスク患者については,毎朝の術前カンファレンスを通して,チーム全員でリスクマネジメントを徹底している。

義歯外来:無歯顎という特殊な口腔内状態に生じた形態的,機能的変化を全部床義歯によって回復し維持するためには,独自な口腔内診査と義歯設計を行わなければならない.具体的には,全部床義歯は口腔内への維持を歯に求められないので,口腔粘膜と義歯床面との唾液を介する付着力に頼らなければならない.全部床義歯にかかる咬合力は義歯床を介して床下粘膜によって支持されるため,義歯床の安定をはかるために上下顎堤の対向関係を考慮し,顎運動と調和した人工歯の配列と咬合様式の付与を行う必要がある.歯および歯の支持組織の欠損による無歯顎者の顔貌の大きな変化を全部床義歯によって回復するにあたり,義歯周囲の筋および関連軟組織の形態や動態との調和を図り,義歯の維持を向上させる形態とする.また歯の喪失および大きな補綴物が口腔内に装着されることによる患者の心理的負担を考慮して応対に注意する必要がある.このような精神状態を含めた全身状態の変化は,口腔粘膜においても変化を生じる可能性が高く,それが義歯の維持,安定の変化,ならびに回復された機能の変化につながる.そのため,定期的リコールを行い,問診やVASにより得られた義歯と機能に対する患者の主観的評価の調査を継続して行い,回復された機能が長期にわたり維持されさらに改善されるよう心がけている.また,当分野独自の評価基準を設け,患者の主観的意見だけでなくEBMに基づいた補綴処置効果の客観的評価も行っている。